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第10話 恋愛相談

Penulis: 倉谷みこと
last update Tanggal publikasi: 2026-04-15 16:10:36

カフェに到着した僕達は、店内の奥にある席を選んだ。周囲に他の客の姿はなく、相談事をするにはうってつけだった。

とはいえ、本当に彼女に相沢さんとの事を話してしまっていいのかどうか、今更ながらに悩んでしまう。

注文を取りに来た店員に、理沙さんは紅茶とイチゴのパフェを、僕はコーヒーをそれぞれ注文する。

「……それで、相馬さんは、何を悩んでるんです?」

店員の気配がなくなってから、理沙さんがたずねた。

「それは……」

口ごもる僕に、理沙さんは肩をすくめて、

「まあ大方、相沢先輩との事なんだろうけど」

と言った。

「え……どうして、それを……?」

僕は、警戒するようにたずねた。

「いやー、二人を見てれば、なんとなくわかりますよ。それに、あの人、昔から浮いた話でトラブってたし」

「え、昔から……?」

僕がそう口にした瞬間、注文していた商品が運ばれてきた。

「ごゆっくりどうぞ」と店員が離れると、理沙さんはきらきらと茶色の瞳を輝かせる。

「わあ、美味しそう! いっただっきまーす!」

と、パフェに口をつける。

満面の笑みでパフェを頬張る彼女を見ながら、僕もコーヒーに口をつけた。

「……それで、相沢さんが、昔から浮いた話でトラブってたっていうのは?」

「私、相沢先輩と同じ高校だったんです」

理沙さんは、パフェに向けていた視線を僕に向けて言った。

相沢さんは、昔からかっこよくて、男女ともに人気があったらしい。告白された数も多かったそうだ。理沙さんも、彼に告白した生徒の中の一人だったようで。

「まあ、それは置いといて。当時は、結構、押しに弱い方だったんじゃないかな? 断りきれずに、同時に複数の女子と付き合ってたみたいですよ。結局、それもバレちゃって、ほとんどの女子から無視されるようになったみたいですけど」

「そう、だったんだ……。だから、恋人は作らないなんて……」

僕がつぶやくと、

「え……先輩、そんな事、言ってたんですか?」

と、理沙さんが目を丸くして言った。

「……ええ。僕、相沢さんと体のお付き合いをしてたんです。でも、僕が彼を本気で好きになっちゃって……。告白したら、『俺、恋人は作らない主義だから』って断られまして……」

僕は、自然と理沙さんに相沢さんとの関係を打ち明けていた。ここまで明かすつもりはなかったのに。

「あの、アホ先輩! もっと他に言い方あるだろ!」

ぷんすかと怒りながら、理沙さんはパフェを頬張る。

「あ、いや、僕が答えを急がせちゃったから……」

「相馬さんは、悪くないですよ! ちゃんと、自分の気持ちを伝えたんだから! まったく!」

と、まだご立腹のようだ。

「それはそうと、理沙さんが告白した時、彼は何て言ってたんですか?」

「へ……? 私の時ですか? べ、別にいいじゃないですか。高校の時の話だし……」

「聞かせてください。僕達は、相沢さんを好きになった同志じゃないですか」

お願いしますと、僕は頭を下げる。

「もう……そういうの苦手なのに……。わかりましたよ。言いますから、頭上げてください」

渋々といった声音で、理沙さんが承諾する。

僕が顔を上げると、肩をすくめた彼女は、苦笑を浮かべていた。

「あの時、先輩は『もう女子はこりごりだ』って、『もしかしたら、男が好きなのかも』って言ってました」

記憶を思い出すように、彼女は遠くを見つめている。

どうやら、相沢さんは、過去のトラウマから恋人を作る事に恐怖を抱いているようだ。その頃から同性愛者だった可能性もある。

(もし、そうだとして……今の僕にできることは、何もないよな)

僕は、コーヒーを飲む振りをして、小さくため息をついた。

「……相馬さん。他にも、悩んでますよね?」

上目遣いの理沙さんが、そう鋭く指摘した。

「あ、いや、それは……」

動揺を隠しきれず、僕は言葉を濁す。

「えー? いいじゃないですか。私達は、同志なんでしょ?」

と、食い下がる理沙さん。

一本取られたと、僕は苦笑するしかない。でも、そのおかげで、遠慮しなくていいと思えた。

「理沙さん。改めて、僕の相談に乗ってもらえませんか?」

覚悟を決めると、僕は改まって理沙さんに頭を下げた。

「もちろん! そのために、ここに誘ったんですから」

理沙さんは、満面の笑みで大きくうなずく。

彼女は、本当に仲間なのだと勇気づけられた。

「それで、先輩と何があったんですか?」

もっと詳しく教えてほしいと、理沙さんが前のめりでたずねてくる。

僕はうなずいて、相沢さんとの関係を赤裸々に語った。もちろん、生々しいところは省いてだ。

「――それで、ベッドサイドに、ピアスが置いてあるのに気づいたんです。それも片方だけ。それが、誰の物なのかわからなくて……」

僕が言葉を切ると、理沙さんは考えるような素振りをした。

「それって、どんなピアスですか?」

「えっと……たしか、猫の肉球の形をしてましたね」

「猫の肉球……」

つぶやくと、理沙さんはあからさまに視線をはずした。

「理沙さん? 何か知ってるなら、教えてくれませんか?」

些細なことでもいいと、僕は告げる。

理沙さんは小さく息をつくと、

「……そのピアスの持ち主、うちの常連客です」

「……誰、なんですか?」

「それを聞いてどうします? 相手に殴り込みにでも行くんですか?」

「そんなこと――! ただ、ピアスが誰の物か、知りたかっただけで……」

「そうやって、自分に言い訳して、自分の本当の気持ちから目を背けてません?」

理沙さんに鋭く指摘されて、胸が痛い。

反論したくても、言葉が出てこない。

「図星って感じですね。それじゃあ、教えてあげられないなー」

そう言って、理沙さんは残ったパフェを味わっている。

「そう、ですよね……。こんな、後ろ向きな相談、迷惑ですよね」

自嘲気味に言って、僕は頭を下げた。

「あーもー! どうして決めつけるかなー? 私、迷惑だなんて言ってないですよ」

理沙さんが、ぷんすかと怒りながら告げる。

「すみません……」

小さく謝罪するけれど、前向きな相談なんて、今の僕には考えられなかった。相沢さんに振られたのは、事実なのだから。

「もう、そんなにしょげないでください。私は、相馬さんの恋を応援したいだけなんです」

と、理沙さんが優しく微笑む。

「……何だか情けないですね、僕。どうにも、独りよがりになってしまって……」

僕が自嘲気味に言うと、

「恋すると、誰でも情けなくなるもんなんです。だから、気にしないでください。それだけ、相手に本気ってことなんですから」

と、理沙さんが名言じみたことを告げた。

「情けなくなるのは本気の証拠、か……」

そうつぶやくと、沈んでいた心が少し軽くなった気がした。

「それで、相馬さんは、先輩とどうなりたいんですか?」

身を乗り出してたずねる理沙さん。何だか、瞳がきらきらと輝いているように見える。

「どうって……本音は、相沢さんの恋人になりたいんです。今の、体だけの関係じゃなくて、心も繋がりたい」

口をついて出た言葉に、僕自身が驚いた。相沢さんに恋をしている自覚はあったけれど、ここまで具体的には考えていなかった。いや、もしかしたら、自分が気づいていなかっただけなのかもしれない。

「なんだ、やっぱり諦めきれないんじゃないですか。そういう事なら、この理沙さん、一肌脱いじゃいますよ」

えっへんと、胸を張る理沙さん。怒っていたと思ったら微笑んでいたり、得意げになってみたり。ころころと表情が変わる。

「理沙さんって、なんか相沢さんみたいですね」

僕は、つい思ったことを口に出してしまっていた。

「えぇっ!? 私が、先輩に?」

驚く理沙さんに、僕はうなずいた。

「よく表情が変わるところが、特に」

「えー……なんか、嫌だなー」

と、理沙さんは口を尖らせる。

「嫌なんですか? かわいらしいのに」

「まあ、かわいいって言ってもらえるのは、うれしいですけどね。それより、相馬さんって、よく見てるんですね。先輩の事」

「それは、まあ……。男の僕から見ても、彼はかっこいい人なので。つい、目で追ってしまうんですよ」

「わかります! あのかっこよさに惹かれて、ついつい好きになっちゃうんですよね!」

うんうんと、理沙さんは何度もうなずく。

「ええ。それに、意地悪なことを言ってても、結局は優しいですからね。つい、甘えたくなってしまう」

言葉を重ねる僕の脳裏には、相沢さんの笑顔が浮かんでいた。

「ふふ、相馬さんって、本当に先輩の事、好きなんですね。……それで、さっきのピアスの持ち主なんですけど、本当に聞きます?」

と、理沙さんが遠慮がちにたずねた。

僕は、彼女を正面から見据えてうなずいた。あのピアスについて、知らなければいけないと思うから。

「傷つくことになるかもですけど……」

「それでも、教えてください」

僕が食い下がると、理沙さんは小さく息をついた。

「じゃあ、言いますけど……。そのピアスの持ち主、南波《なんば》秋彦《あきひこ》っていう人です」

「南波、秋彦……」

僕は、提示された名前をつぶやく。名前から察するに、その人物は男性だと思う。でも、相沢さんとはどんな関係なのだろう。もしかしたらと、嫌な予感がちらついて離れない。

「うちの常連客で、先輩の……お客さんです」

理沙さんは、言葉を濁した。おそらく、僕を思ってのことだろう。

「ありがとうございます。でも、そんなに気を遣わなくていいですよ。僕も一応、大人なので」

と、僕は理沙さんに微笑み返した。

当たってほしくない予感ほど当たるのは、世の常なのかもしれない。口では大丈夫だと言っていても、胸がちくりと痛む。相沢さんが僕以外の人と体を重ねている事実に、嫌悪感を抱いた。いや、違う。これは、嫉妬だ。僕の心に汚泥のように溜まる、どす黒くて醜いもの。

心が闇に塗りつぶされる前に、僕はゆっくりと息をつく。

「大丈夫ですか?」

心配そうに、理沙さんが声をかけてくる。

「すみません。……大丈夫、ではないですけどね。でも、どうしたら振り向いてもらえるのかな……?」

ぽつりと本音が漏れる。無理なのだろうかと、弱気になってしまう。

「うーん……でも、本当に脈がないわけでもないと思うんですよね」

「どういう事ですか?」

「相馬さんがお店に来なくなってから、先輩、あからさまに沈んでるんですよ。営業中は、得意の営業スマイルで誤魔化してたりしてるんですけどね。休憩中とか閉店後とか、もうウザイくらい」

理沙さんは、眉間にしわを寄せて肩をすくめる。

「そんなに……」

沈んでいる相沢さんを見たことがないので、信じられなかった。でも、あれだけころころと表情が変わるのだから、あり得ない話ではない。

理沙さんはうなずくと、

「いつもお客さんからの相談を受けて、そのまま成り行きで……っていうのが多いみたいなんです。でも、相馬さんの時って、先輩に声かけられたんですよね?」

と、確認するようにたずねる。

「えっと……確かそうだったような……?」

僕は、疑問形で答えた。正直なところ、あの時の事はあまり記憶にない。酔いつぶれて彼に抱かれたのだから、きっかけなんて覚えているわけがなかった。

「だとしたら、やっぱり、少なくても脈はあるはずなんです」

と、理沙さんが力強く言った。

彼女曰く、相沢さんが自分から誘うことはほとんどないそうだ。だから、彼から誘われた場合、脈があるということになるらしい。

「でも、それじゃあ、どうして『恋人を作る気はない』なんて……?」

「言葉通りだと思います、たぶん」

僕よりも相沢さんの事を知っている理沙さんの言葉だからこそ、信憑性はある。でも、断られたのは事実なわけで。

(僕は、いったいどうすればいいんだ?)

次の一手が思い浮かばず、僕は思考の袋小路に迷い込んでしまった。

「……相馬さん。先輩と、ちゃんと話し合った方がいいんじゃないですか? もちろん、気まずいのはわかってますけど」

おずおずと、理沙さんが提案する。

たしかに、話さないことには先に進めない。でも、彼に合わせる顔がないし、会うのが怖い。

「もし、一人で会うのが怖いなら、私が隣にいますから」

優しく微笑む彼女の笑顔が、とても心強く感じた。

「……すみません、お願いしてもいいですか?」

情けないけれど、彼女に頼るしかない。このまま、もやもやした嫉妬を抱え続いているのはしんどい。それに、相沢さんの真意が知りたかった。

「わかりました。それじゃあ、近々セッティングしますね。あ、連絡先交換しません? 日時が決まったら、連絡しますんで」

と、理沙さんはスマホを取り出した。

お願いしますと僕もスマホを取り出し、彼女と連絡先を交換した。もう逃げないと、心に誓う。

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