Masukカフェに到着した僕達は、店内の奥にある席を選んだ。周囲に他の客の姿はなく、相談事をするにはうってつけだった。
とはいえ、本当に彼女に相沢さんとの事を話してしまっていいのかどうか、今更ながらに悩んでしまう。
注文を取りに来た店員に、理沙さんは紅茶とイチゴのパフェを、僕はコーヒーをそれぞれ注文する。
「……それで、相馬さんは、何を悩んでるんです?」
店員の気配がなくなってから、理沙さんがたずねた。
「それは……」
口ごもる僕に、理沙さんは肩をすくめて、
「まあ大方、相沢先輩との事なんだろうけど」
と言った。
「え……どうして、それを……?」
僕は、警戒するようにたずねた。
「いやー、二人を見てれば、なんとなくわかりますよ。それに、あの人、昔から浮いた話でトラブってたし」
「え、昔から……?」
僕がそう口にした瞬間、注文していた商品が運ばれてきた。
「ごゆっくりどうぞ」と店員が離れると、理沙さんはきらきらと茶色の瞳を輝かせる。
「わあ、美味しそう! いっただっきまーす!」
と、パフェに口をつける。
満面の笑みでパフェを頬張る彼女を見ながら、僕もコーヒーに口をつけた。
「……それで、相沢さんが、昔から浮いた話でトラブってたっていうのは?」
「私、相沢先輩と同じ高校だったんです」
理沙さんは、パフェに向けていた視線を僕に向けて言った。
相沢さんは、昔からかっこよくて、男女ともに人気があったらしい。告白された数も多かったそうだ。理沙さんも、彼に告白した生徒の中の一人だったようで。
「まあ、それは置いといて。当時は、結構、押しに弱い方だったんじゃないかな? 断りきれずに、同時に複数の女子と付き合ってたみたいですよ。結局、それもバレちゃって、ほとんどの女子から無視されるようになったみたいですけど」
「そう、だったんだ……。だから、恋人は作らないなんて……」
僕がつぶやくと、
「え……先輩、そんな事、言ってたんですか?」
と、理沙さんが目を丸くして言った。
「……ええ。僕、相沢さんと体のお付き合いをしてたんです。でも、僕が彼を本気で好きになっちゃって……。告白したら、『俺、恋人は作らない主義だから』って断られまして……」
僕は、自然と理沙さんに相沢さんとの関係を打ち明けていた。ここまで明かすつもりはなかったのに。
「あの、アホ先輩! もっと他に言い方あるだろ!」
ぷんすかと怒りながら、理沙さんはパフェを頬張る。
「あ、いや、僕が答えを急がせちゃったから……」
「相馬さんは、悪くないですよ! ちゃんと、自分の気持ちを伝えたんだから! まったく!」
と、まだご立腹のようだ。
「それはそうと、理沙さんが告白した時、彼は何て言ってたんですか?」
「へ……? 私の時ですか? べ、別にいいじゃないですか。高校の時の話だし……」
「聞かせてください。僕達は、相沢さんを好きになった同志じゃないですか」
お願いしますと、僕は頭を下げる。
「もう……そういうの苦手なのに……。わかりましたよ。言いますから、頭上げてください」
渋々といった声音で、理沙さんが承諾する。
僕が顔を上げると、肩をすくめた彼女は、苦笑を浮かべていた。
「あの時、先輩は『もう女子はこりごりだ』って、『もしかしたら、男が好きなのかも』って言ってました」
記憶を思い出すように、彼女は遠くを見つめている。
どうやら、相沢さんは、過去のトラウマから恋人を作る事に恐怖を抱いているようだ。その頃から同性愛者だった可能性もある。
(もし、そうだとして……今の僕にできることは、何もないよな)
僕は、コーヒーを飲む振りをして、小さくため息をついた。
「……相馬さん。他にも、悩んでますよね?」
上目遣いの理沙さんが、そう鋭く指摘した。
「あ、いや、それは……」
動揺を隠しきれず、僕は言葉を濁す。
「えー? いいじゃないですか。私達は、同志なんでしょ?」
と、食い下がる理沙さん。
一本取られたと、僕は苦笑するしかない。でも、そのおかげで、遠慮しなくていいと思えた。
「理沙さん。改めて、僕の相談に乗ってもらえませんか?」
覚悟を決めると、僕は改まって理沙さんに頭を下げた。
「もちろん! そのために、ここに誘ったんですから」
理沙さんは、満面の笑みで大きくうなずく。
彼女は、本当に仲間なのだと勇気づけられた。
「それで、先輩と何があったんですか?」
もっと詳しく教えてほしいと、理沙さんが前のめりでたずねてくる。
僕はうなずいて、相沢さんとの関係を赤裸々に語った。もちろん、生々しいところは省いてだ。
「――それで、ベッドサイドに、ピアスが置いてあるのに気づいたんです。それも片方だけ。それが、誰の物なのかわからなくて……」
僕が言葉を切ると、理沙さんは考えるような素振りをした。
「それって、どんなピアスですか?」
「えっと……たしか、猫の肉球の形をしてましたね」
「猫の肉球……」
つぶやくと、理沙さんはあからさまに視線をはずした。
「理沙さん? 何か知ってるなら、教えてくれませんか?」
些細なことでもいいと、僕は告げる。
理沙さんは小さく息をつくと、
「……そのピアスの持ち主、うちの常連客です」
「……誰、なんですか?」
「それを聞いてどうします? 相手に殴り込みにでも行くんですか?」
「そんなこと――! ただ、ピアスが誰の物か、知りたかっただけで……」
「そうやって、自分に言い訳して、自分の本当の気持ちから目を背けてません?」
理沙さんに鋭く指摘されて、胸が痛い。
反論したくても、言葉が出てこない。
「図星って感じですね。それじゃあ、教えてあげられないなー」
そう言って、理沙さんは残ったパフェを味わっている。
「そう、ですよね……。こんな、後ろ向きな相談、迷惑ですよね」
自嘲気味に言って、僕は頭を下げた。
「あーもー! どうして決めつけるかなー? 私、迷惑だなんて言ってないですよ」
理沙さんが、ぷんすかと怒りながら告げる。
「すみません……」
小さく謝罪するけれど、前向きな相談なんて、今の僕には考えられなかった。相沢さんに振られたのは、事実なのだから。
「もう、そんなにしょげないでください。私は、相馬さんの恋を応援したいだけなんです」
と、理沙さんが優しく微笑む。
「……何だか情けないですね、僕。どうにも、独りよがりになってしまって……」
僕が自嘲気味に言うと、
「恋すると、誰でも情けなくなるもんなんです。だから、気にしないでください。それだけ、相手に本気ってことなんですから」
と、理沙さんが名言じみたことを告げた。
「情けなくなるのは本気の証拠、か……」
そうつぶやくと、沈んでいた心が少し軽くなった気がした。
「それで、相馬さんは、先輩とどうなりたいんですか?」
身を乗り出してたずねる理沙さん。何だか、瞳がきらきらと輝いているように見える。
「どうって……本音は、相沢さんの恋人になりたいんです。今の、体だけの関係じゃなくて、心も繋がりたい」
口をついて出た言葉に、僕自身が驚いた。相沢さんに恋をしている自覚はあったけれど、ここまで具体的には考えていなかった。いや、もしかしたら、自分が気づいていなかっただけなのかもしれない。
「なんだ、やっぱり諦めきれないんじゃないですか。そういう事なら、この理沙さん、一肌脱いじゃいますよ」
えっへんと、胸を張る理沙さん。怒っていたと思ったら微笑んでいたり、得意げになってみたり。ころころと表情が変わる。
「理沙さんって、なんか相沢さんみたいですね」
僕は、つい思ったことを口に出してしまっていた。
「えぇっ!? 私が、先輩に?」
驚く理沙さんに、僕はうなずいた。
「よく表情が変わるところが、特に」
「えー……なんか、嫌だなー」
と、理沙さんは口を尖らせる。
「嫌なんですか? かわいらしいのに」
「まあ、かわいいって言ってもらえるのは、うれしいですけどね。それより、相馬さんって、よく見てるんですね。先輩の事」
「それは、まあ……。男の僕から見ても、彼はかっこいい人なので。つい、目で追ってしまうんですよ」
「わかります! あのかっこよさに惹かれて、ついつい好きになっちゃうんですよね!」
うんうんと、理沙さんは何度もうなずく。
「ええ。それに、意地悪なことを言ってても、結局は優しいですからね。つい、甘えたくなってしまう」
言葉を重ねる僕の脳裏には、相沢さんの笑顔が浮かんでいた。
「ふふ、相馬さんって、本当に先輩の事、好きなんですね。……それで、さっきのピアスの持ち主なんですけど、本当に聞きます?」
と、理沙さんが遠慮がちにたずねた。
僕は、彼女を正面から見据えてうなずいた。あのピアスについて、知らなければいけないと思うから。
「傷つくことになるかもですけど……」
「それでも、教えてください」
僕が食い下がると、理沙さんは小さく息をついた。
「じゃあ、言いますけど……。そのピアスの持ち主、南波《なんば》秋彦《あきひこ》っていう人です」
「南波、秋彦……」
僕は、提示された名前をつぶやく。名前から察するに、その人物は男性だと思う。でも、相沢さんとはどんな関係なのだろう。もしかしたらと、嫌な予感がちらついて離れない。
「うちの常連客で、先輩の……お客さんです」
理沙さんは、言葉を濁した。おそらく、僕を思ってのことだろう。
「ありがとうございます。でも、そんなに気を遣わなくていいですよ。僕も一応、大人なので」
と、僕は理沙さんに微笑み返した。
当たってほしくない予感ほど当たるのは、世の常なのかもしれない。口では大丈夫だと言っていても、胸がちくりと痛む。相沢さんが僕以外の人と体を重ねている事実に、嫌悪感を抱いた。いや、違う。これは、嫉妬だ。僕の心に汚泥のように溜まる、どす黒くて醜いもの。
心が闇に塗りつぶされる前に、僕はゆっくりと息をつく。
「大丈夫ですか?」
心配そうに、理沙さんが声をかけてくる。
「すみません。……大丈夫、ではないですけどね。でも、どうしたら振り向いてもらえるのかな……?」
ぽつりと本音が漏れる。無理なのだろうかと、弱気になってしまう。
「うーん……でも、本当に脈がないわけでもないと思うんですよね」
「どういう事ですか?」
「相馬さんがお店に来なくなってから、先輩、あからさまに沈んでるんですよ。営業中は、得意の営業スマイルで誤魔化してたりしてるんですけどね。休憩中とか閉店後とか、もうウザイくらい」
理沙さんは、眉間にしわを寄せて肩をすくめる。
「そんなに……」
沈んでいる相沢さんを見たことがないので、信じられなかった。でも、あれだけころころと表情が変わるのだから、あり得ない話ではない。
理沙さんはうなずくと、
「いつもお客さんからの相談を受けて、そのまま成り行きで……っていうのが多いみたいなんです。でも、相馬さんの時って、先輩に声かけられたんですよね?」
と、確認するようにたずねる。
「えっと……確かそうだったような……?」
僕は、疑問形で答えた。正直なところ、あの時の事はあまり記憶にない。酔いつぶれて彼に抱かれたのだから、きっかけなんて覚えているわけがなかった。
「だとしたら、やっぱり、少なくても脈はあるはずなんです」
と、理沙さんが力強く言った。
彼女曰く、相沢さんが自分から誘うことはほとんどないそうだ。だから、彼から誘われた場合、脈があるということになるらしい。
「でも、それじゃあ、どうして『恋人を作る気はない』なんて……?」
「言葉通りだと思います、たぶん」
僕よりも相沢さんの事を知っている理沙さんの言葉だからこそ、信憑性はある。でも、断られたのは事実なわけで。
(僕は、いったいどうすればいいんだ?)
次の一手が思い浮かばず、僕は思考の袋小路に迷い込んでしまった。
「……相馬さん。先輩と、ちゃんと話し合った方がいいんじゃないですか? もちろん、気まずいのはわかってますけど」
おずおずと、理沙さんが提案する。
たしかに、話さないことには先に進めない。でも、彼に合わせる顔がないし、会うのが怖い。
「もし、一人で会うのが怖いなら、私が隣にいますから」
優しく微笑む彼女の笑顔が、とても心強く感じた。
「……すみません、お願いしてもいいですか?」
情けないけれど、彼女に頼るしかない。このまま、もやもやした嫉妬を抱え続いているのはしんどい。それに、相沢さんの真意が知りたかった。
「わかりました。それじゃあ、近々セッティングしますね。あ、連絡先交換しません? 日時が決まったら、連絡しますんで」
と、理沙さんはスマホを取り出した。
お願いしますと僕もスマホを取り出し、彼女と連絡先を交換した。もう逃げないと、心に誓う。
翌日から、僕は篝火通いを再開した。扉を開くと、マスターと理沙さんが以前と変わらずに出迎えてくれた。もちろん、竜希も。いつもの席でチャイナブルーをオーダーすると、竜希がそつなくカクテルを作る。その姿が本当にかっこよくて、思わず見惚れてしまった。「お待たせいたしました」声とともに、鮮やかな青色のカクテルが僕の目の前に置かれた。「ありがとう。それにしても、たつ……相沢さんは、本当に手際がいいですよね」竜希と言いかけて、慌てて言い直した。「ありがとうございます。一応、これで生活してますので。それより、今、名前で呼ぼうとしたでしょ?」と、喉の奥で笑う竜希。「しかたないだろ? まだ、切り替えに慣れてないんだよ」声を抑えて抗議する。「でも、一線を画したいって言ったのは、佳晴さんですよ?」「それは、そうだけど……。なんか、ずるいよな。貴方は、どっちの時でも変わらないんだから」「俺は、こういうスタンスでやらせてもらってますので」ドヤ顔で宣う竜希に、少しだけ負けた気分になる。(でも、竜希が僕に沼ってるのは、事実だもんね)と、僕は密かにほくそ笑む。「佳晴さん? どうかしました?」小首をかしげる竜希に何でもないと言って、グラスを傾ける。爽やかな香りが、秘密を分け合う共犯者のように感じた。何か話したそうな竜希だったけれど、他の客からのご指名が入った。相沢相談所は、今日も盛況のようだ。竜希の背中を見送っていると、「お久しぶりですね」低く静かな声が聞こえた。振り向くと、いつの間にかカウンター越しにマスターがいた。「本当にご無沙汰してしまって……。その節は、お世話になりました」テーブルにつきそうなほど、深く頭を下げる。「いえ、私は何も。また、お客様がこうして来てくださった。それだけでは
「うん、美味い」と、竜希は満面の笑みで言った。ほっとして、僕もカレーを食べ始める。僕史上、最高の出来に仕上がっていて、思わずにんまりした。「自分で作るより、確実に美味いわ」竜希が、大絶賛で頬張っている。「褒められるのはうれしいけど、普通に作っただけだよ?」「謙遜すんなって。マジで美味いんだから。でもさ、じゃがいも、入れてないんだな」「ああ、うん。そういえば、今までじゃがいもを入れた事なかったかも」指摘されて、無意識にじゃがいもを避けていた事に気がついた。幼い頃から、カレーにじゃがいもが入っていないことが当たり前だったからだろう。「竜希は、じゃがいも入れる派なんだ?」「あー……気分によるけど、基本的には入れるかな」思案しながら、竜希が答える。「でも、入れない方が好きかも。このくらいの辛さが、ちょうどいいんだよね」「よかった。多めに作ったから、ルウだけでよければ、おかわりしても大丈夫だよ」僕が言うと、竜希は瞳を輝かせてうなずいた。「それにしても、佳晴さんって料理上手なんだな」「自炊するから、それなりにはね」「カレー以外も食いたいなー」期待するようなまなざしを向けられ、僕は「そのうちな」とはにかむ。まさか、こんなに好評だとは思っていなかった。今までは、自分の好きなように適当に作っていたけれど、今度からは竜希のためにも、もう少しきちんと作ろうと思った。「でも、本当に僕なんかが作る料理でいいの?」ふと、よぎった不安を口走る。「……なよ」それまでもりもりとカレーを食べていた竜希は、手を止めると沈んだ声でつぶやいた。「え……?」よく聞こえず、僕は少し身を乗り出すように聞き返した。「『僕なんか』なんて言うなよ。悲しくなるだろ。他の誰でもない、俺が、あんたの手料理を食いたいの!」
まどろみの中で、僕は眩しさを感じた。ゆっくりとまぶたを開けると、カーテンの隙間から爽やかな朝の光が差し込んでいる。起き上がろうとして、胸の上の重みに気がついた。隣を見ると、竜希が僕を抱き枕にしていた。(そういえば、竜希の部屋に泊まったんだっけ)と、気持ちよさそうな竜希の寝顔を見つめる。「ん……よしはるさん……」「ふふっ。どんな夢を見てるんだか」微笑みながら小さくつぶやいて、彼を起こさないようにそっとベッドから抜け出す。極力、物音を立てないように気をつけながら、着替えを済ませる。「ふぁ……あれ? もう、あさ……?」寝ぼけたような竜希の声が聞こえた。「おはよう、竜希。僕はそろそろ起きるけど、竜希はまだ寝てていいよ」言いながら、僕はベッドに近づいた。竜希の額に、軽くキスを落とす。「ん……冷蔵庫にサンドイッチが入ってるから、食べていいよ」竜希はくすぐったそうに目を細めると、ぽやっとした笑みを浮かべて言った。「サンドイッチ? もしかして、昨日の夜、先に寝てていいって言ってたのって――」僕が小首をかしげると、彼は軽くうなずいた。「朝から飯作るのって、面倒だったりするじゃん? 佳晴さんには、ゆっくり寝ててほしかったから」そう言って、竜希はもう一度あくびをする。「ありがとう、遠慮なくいただくよ」「うん。いってらっしゃい、おやすみぃ……」そう言うと、竜希はまぶたを閉じてすぐに寝入った。僕は小声でおやすみを告げると、愛おしい彼の頭を優しくなでて部屋から出た。「冷蔵庫は、と……」つぶやきながらキッチンをのぞくと、すぐ近くに黒い冷蔵庫が鎮座していた。扉を開くと、棚の中央にサンドイッチの皿があった。それとコーヒー牛乳のパックを取り出
「美味そう……」つぶやくと同時に、僕の腹が鳴った。「冷めないうちに食おうぜ」待ちきれないとばかりに、竜希がうながす。僕は何食わぬ顔でうなずいて、食卓についた。幸い、僕の腹の音は、彼には聞こえていなかったようだ。二人分のミートソースパスタとコーンスープからは、美味しそうな湯気が立っている。僕達はいただきますと言って、早速、食事に手をつけた。コーンスープのコクと甘味が、食べ応えのあるパスタにちょうどいい。「うん、美味い。さすがだね。短時間で、二品も仕上げるんだから」「サンキュー。でも、コーンスープは、市販のやつだよ。あの短時間で、パスタ作りつつ、ここまでなめらかにするのは、さすがに無理だって」と、謙遜する竜希。それでも、僕からしてみれば、すごい事には違いない。もし、同じ状況で僕が作ったら、二倍とはいかないまでも時間がかかると思う。「ごめん、佳晴さん」突然、竜希が頭を下げた。「え? いきなり、何?」理由がわからなくて、僕は小首をかしげた。「いや……明日、佳晴さん仕事だろ? なのに、無理させちまったから……」うなだれる竜希の姿は、どこかしょんぼりとした大型犬を彷彿とさせる。それが、何だかかわいらしいと思った。「ちょっとだるいけど、大丈夫だよ」だから謝らなくていいと言い置いて、僕はパスタを頬張った。「じゃあ、せめて、佳晴さんの家の場所を教えてよ」送らせてほしいと、彼は真摯に告げる。「……あれ? 言ってなかったっけ? 僕の自宅、このアパートの一階にあるんだ」「……へ?」素っ頓狂な声を上げ、竜希が目を丸くする。「なんか、ごめん」僕が謝ると、竜希は脱力したように微笑んだ。「いや……それなら、遅くなっても大丈夫だよな?」「え、いや、でも……明日、仕事だし……」「えー? いいじゃん。もう少し、佳晴さんと一緒にいたいんだって」
「挿れるよ」宣言した直後、相沢さんはゆっくりと僕の中に挿入ってきた。久しぶりだからか、内側から押し広げられる感覚がある。でも、痛みは、まったくなかった。「やば……久しぶりの佳晴さんの中、あちぃ……。このまま、溶けそう」言いながら、彼は僕の中に自身を沈めていく。「相沢さんの、おっきぃ……」切なかった腹の中が、少しずつ彼で満たされていく。言いようのない心のざわつきも、彼のぬくもりで溶かされていった。彼を根元まで迎え入れた直後、「あ゛ぁああ……っ!」僕は呆気なく達してしまった。腹の上に広がる白濁が熱い。でも、僕自身はまだ勃ち上がったままだ。「挿入れただけで、イッちゃった?」そう言って微笑む彼に、僕は荒い息をつきながらうなずく。「かわいい。でも、まだ終わりじゃないぜ? もっと、俺を感じてよね」と、相沢さんは緩い抽挿を始める。「な゛っ……!? だめ! イッた、ばっか……なのにぃ!」「だから、いいんだろ?」妖艶に言って、相沢さんはゆっくりと腰を動かす。全身を駆け巡る甘いしびれに、僕は喘ぎ悶える。「好きな人とのセックスって……こんなにイイもんなんだな」相沢さんが、恍惚な表情でつぶやいた。その言葉には、同意しかない。身も心も繋がる心地よさは、本当に久しぶりだった。「あいざわ、さん……んぁ……すきぃ……」「俺も好きだよ、佳晴さん」睦言を交わしながら、キスをする。舌を絡め、互いの唇を夢中で貪る。抽挿は次第に速くなり、僕も無意識に腰を動かしていた。「んっ……んふぅ……ぁっ&h
「ふ……っ……んぅ……ぁ……ん」甘い吐息が漏れる。我慢しようとしても、止められなかった。彼の舌が、ぬらりと僕の舌を絡め取る。かと思えば、舌先でちろちろと舐められる。僕もどうにか応えようとするけれど、上手くいかず彼のペースに飲まれてしまう。(相沢さん……)好きが溢れて、僕は彼の背に手を回した。頭の中がじんわりとしびれてきて、腹の奥が疼き出す。おまけに、足の力が抜け、立っているのがままならない。しがみつくように、手に力を入れた。「――っ!」彼の吐息を感じた直後、キスをしたまま体の向きを変えられ壁に押しつけられる。「ん゛ぅ……っ!」吐息まで飲み込まれそうな深いキスに、一瞬、息ができなくなる。執拗に舐め回され、舌が麻痺してくる。けれど、同時に敏感にもなっていて、彼の舌が動く度に僕自身が小刻みに動いてしまう。苦しくなって彼の背中を軽く叩くと、ようやく解放された。「っは……はぁ、相沢さん……どうしたの?」僕は息を整えながらたずねる。「悪い……。我慢してたんだけど、限界でさ。……嫌だった?」不安そうにたずねる相沢さんに、僕は首を横に振った。「嫌じゃないよ。むしろ、興奮した」少し恥ずかしいけれど、僕は素直にそう言った。以前、『店では、指一本触れるな』と、彼を突き放してしまった。あの時と今とでは、まるで状況が違う。でも、相沢さんは、ずっと約束を守ってくれていた。そんな彼をとても愛おしく思う。同時に、バーテンダー姿の彼に唇を奪われるという非日常感に欲情してしまった。「ふーん? じゃあ、これからは、店でも触っていいんだな?」確認するような口ぶりで、相沢さんが妖艶に微笑む。「あ、いや、今まで通り